2024年08月26日
「これからの動物保護活動」殺処分を超えて私たちが向かうもの
皆さんはどんな社会が人にも動物にも理想とお考えですか?
国内外でご活躍の獣医師 西山ゆう子先生の公開講座が、6月27日(木)に酪農学園大学で開催されました。
テーマは「これからの動物保護活動 殺処分ゼロを超えて〜私たちが向かうもの」。
講座の概要では、「過去20年に日本の動物愛護活動は大きく変化しました。
自治体のセンターは殺処分から保護譲渡活動をする場になり、多くのボランティア団体やカフェが保護活動に協力するようになりました。
一方で動物保護施設はどこも満員で、譲渡できずに長く入所している動物がいます。
多頭飼育崩壊の多発、地域猫を介しての地域住民の摩擦、ネグレクトを含む虐待問題も浮上しています。
動物保護活動の未来はどうあるべきか。今の課題から将来について深堀りします。」と書かれ、「殺処分“ゼロ”」がゴールではなく、その先にある動物愛護と福祉のあり方を動物福祉の先進国であるアメリカから学ぶ大変実り多いお話を聴かせてくださいました。
講義の冒頭で、「ヒトデと少女」のお話がありました。
大嵐で海岸に打ち上げられたヒトデを日が昇り干からびて死んでしまう前に少女が一つ一つ拾っては海に放り投げるというお話で、お爺さんがこんなにたくさんあるのだし無駄だよと説得を試みますが、少女はこのままでは死んでしまう、1匹でも助かることに意味があると行動を止めることはありませんでした。
救っても救っても零れ落ちる「命」・・・これは、動物保護の現場にも言えることです。
いったいいつまでこんなことが続くのでしょうか。
殺処分の可能性を無くすために、多くの行政機関は出来るだけ犬猫の引き取りを拒みます。
もちろん終生飼育は飼い主の義務と責任ですから当然なのですが、悲しいかな適正飼育の高い人や社会的な自立をしている人、誰かに動物を託すことが出来る人だけが動物を飼っているわけではありません。
行政機関では、適正飼育を推進しつつ、一つ一つが「命」の案件であることを重く受け止め、積極的に譲渡する場所へと変わることを望みます。
毎年公表される環境省の犬・猫の引取りと処分数では、愛護団体に引き取られた数も譲渡数に含まれていますが、アメリカでは愛護団体に犬猫が引き取りされた場合は、「移動」扱いになっています。
何故ならそこから新しい飼い主さんを探すわけですから譲渡数に加えてしまうと正確な数値とは言えなくなるからです。
そして、世界的なスタンダードは、殺処分ゼロではなく「譲渡率」と「譲渡数」で、存命出所率に注目しています。
西山先生は、動物が施設内に停滞していることは良くないこととアメリカの愛護団体で2004年頃に始まったアシロマー統計のお話をしてくださいました。
良い譲渡活動を推進するために考え出されましたが、引き取りした犬猫たちを@〜Bに分類し、カテゴリー別に入所、在所、出所の数を記載します。
LRRライブリリースレートは譲渡率のことですが、譲渡数を上げることで引き取り数も上げていくものです。
当会のように最終的な受け皿になることが多い団体には難しい考え方になりますが、その場合はカテゴリーのランクが上がれば、存命出所率も上がるというものです。
愛護団体の保護活動もタイプ別に分かれますが、
1. 回転型若くて健康な個体 2. 看病、看取り型があり、当会は2のタイプになっている傾向が強く、少しでも健康状態を上げて1頭でも多くの犬猫が施設の子から家庭の子になるのが目標です。
その後、西山先生は地域猫のお話をされました。
TNRは50年以上前から欧米を中心に「人に慣れていない外猫を増やさない」よう、外猫の福祉向上のために始まったそうです。
ですが、今はTNRからTNTAとなり、T(Trap捕獲)→N(Neuter不妊手術)→T(Tame順化)→A(Adoption譲渡)へと変わりつつあります。
やがて外に野良猫や地域猫がいなくなり家庭で愛育してもらえる猫が増えたらどんなに素晴らしいことでしょうか。
欧米と比べるとまだ動物福祉の遅れが目立つ日本ですが、動物愛護や福祉の精神が先進国と同レベルになるには国民の意識の底上げだと思います。
有効なのは、学校教育で虐めや差別を無くす情操教育や創造や共感する力を養っていくことが重要ですし、動物愛護管理法が机上の物ではなく、現場に落とし込まれ生きた法律となること、国にはそのための体制作りが必要だと思いました。
日本の動物愛護団体も様々だと思いますが、一つの共通した定義があると活動内容の比較が出来て、動物を引き取りたい方やご寄付されたい方の指針となると思います。
国民性や文化など国によって違いますので、良いものを受け入れ日本のスタイルが出来ると良いのだろうと大変参考になる実りの大きな講座でした。
西山ゆう子先生、いつもためになるお話を聴かせてくださり感謝申し上げます。
これからも益々のご活躍を願っています。
当会が札幌市と共催で行った西山ゆう子先生の講座は以下からご覧いただけます。
第4回公開講座「〜アメリカから学ぶ〜日本の動物福祉の未来」のご報告
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